ちちおやニュース
父親からの電話。
父親は、デジタルデバイドが犬を二匹飼っているような人です。
「本を買って、みて、電話をかけているのだが。」
「何のことですか?」
「バイクだ。」
「ああ、ええ。」
「電話をかけると、みんな売れているのだ。」
「はあ、そうですか。」
「どうやらみんな、インターネットというもので見ているらしいな。」
ついに、おそれていた事態です。非常に物欲の強い、熱心な性格の彼のことです。インターネットなど教えようものなら、実家はバイクのパーツと、掛け軸と、瀬戸物と、動かないカメラと、香炉であふれることでしょう。
人間二人、犬二匹、猫三匹の家庭など、簡単に崩壊するに決まっています。
「え、ああ、そうみたいですね。」
「なぜ、黙っていた。」
「いや、教育上好ましくないかと思いまして。」
「ほう。」
「いや、すいません。」
「で、だ。」
「はい。」
「パソコンが漫画喫茶にあると聞いて、行ってきた。」
「えっ・・・。漫画喫茶ですか?」
「うむ。入場料は400円だった。」
「どうでした?」
「全然わからなかった。ので、パソコンを放置して、帰って来た。」
「でしょうね。」
「こんど、教えてくれんか。」
「じゃあ、今月の末にでも。」
「うむ。そうしてくれるか。以上だ。」
「はい。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
父親がはじめてマンガ喫茶に行っているところを想像するだけでも、かなりほほえましい気持ちになります。
おそらく、彼にとってはちょっとした冒険だったと思います。
わたしの父親は、最近どんどん面白くなっていきます。