手すり

おれブログかく。

「ガラコー、ガラコはいらんかねー。」

年の瀬も押し迫った冬の夜。寒空の街に一人の少女がたたずんでいる。手にはカゴ。中にはガラコが入っている。少女はガラコ売りの少女。親から言いつかっただけのガラコを売るまでは家に帰れない。しかし街は年の瀬の忙しい人でごった返しており、少女の小さな声は雑踏にかき消されている。

少女「あの、ガラコ、ガラコはいりませんか。」
通行人「ええ?」
少女「ガラコ、いりませんか。」
通行人「ガラコって誰だよ?」
少女「ガラコ、これです。ガラスに塗るだけで雨をはじくんです。」
通行人「何それ、いらねえよ」
少女「あ、ぬりぬりガラコの他にもガラコQもあるんです。」

その声は届かず、通行人は背を向けて行ってしまう。誰も少女に見向きもせずに、早足で過ぎてゆく。健気に声をかけつづける少女。夜は更けるが、まだガラコは売れない。

少女「はあ。今日もガラコが売れない。こんなに便利なのに。塗るだけで雨の日もよく見えるのに。」

少女は自分のメガネを外し、片目にガラコを塗る。塗っているうちに涙がこぼれる。その涙はメガネに落ちると、ガラコのコーティング膜にはじかれて、ポロポロとこぼれていく。ため息をつきながら、そのメガネをかける。すると、片目だけには暖かい食堂の風景が見える。穏やかに薪の燃える暖炉と、温かいスープが置かれたテーブル。

少女「え・・・」

少女は慌ててメガネを外し、周りを確かめる。さっきまでと同じ、冷たい街角の風景が広がっている。
少女はもう片方にもガラコを塗る。
もう一度メガネをかけると、もう一度、暖かい食堂の風景が見える。まるで自分がその場にいるかのようだった。それだけでなく、今まで見えなかったところに、大きなソファが見える。そしてそのソファには死んだはずのおばあさんが座っている。いつでも少女に優しかったおばあさんのことが、少女に思い出される。

少女「ねえおばあさん、なんでガラコはガラコって名前なの?」
おばあさん「それはね、ガラスをコーティングするから、ガラコなのよ。」
少女「そうなの。変な名前。」
おばあさん「そうねえ。フフ。」

少女「おばあさん・・・!」

少女は懐かしさに我を忘れ、おばあさんに駆け寄ろうとする。しかしそこは暗い冬の街で、車の往来もある。少女は車道に飛び出す格好になった。その少女の飛び出した先に、一台の車。運転手は急のことで減速も間に合わない。
少女をはねた車は悲鳴にも似た音を立てて停まる。運転手が飛び出し、少女に駆け寄る。

運転手「おい!大丈夫か!?おい!」
少女は抱きかかえられているが、ぐったりしている。
少女「おばあさん・・・ガラコって変な名前ね・・・」
うつろな目で少女はつぶやく。
運転手「おい!なんだって?」
少女はゆっくりと目を閉じる。

その手には「ぬりぬりガラコちょい長」が握られていた。

おわり。